前年度までに蒐集した24点の蔵書目録について、彦根城内の蔵書目録(3点)と江戸藩邸内の蔵書目録(6点)、上記2種のいずれか判断できない蔵書目録(15点)に分類し、目録ごとに分析考察を行なった。その結果、彦根場内の文庫には、寛政6年(1794)12月の目録では本朝軍記類を中心に71箱210点、嘉永年間の目録には歌書と兵書を中心に495点、明治中期の目録には系譜類・歌書・有職故実書などを中心に144点の蔵書があったことが明らかになった。そして、江戸藩邸の文庫には、江戸後期には詩文章・歌書を中心に362点、安政5年以後の目録には雑書を中心に569点、明治初期の目録には茶道・音楽を中心に国文学や兵書など3151点の蔵書があったことが判明した。従来、井伊家は武門の家として知られていたが、本研究によって、幕末から明治初期に至るころの井伊家は、江戸藩邸だけで3000点を超える蔵書を有する蔵書家であったことが蔵書目録という史料から初めて明らかになったのである。また、彦根城内か江戸藩邸かは判断できないが、井伊家には唐本や法帖、蘭書なども所蔵されていたことが、本研究によって明らかになった。また、本年度は甲賀市教育委員会のご厚意により、水口藩加藤家の蔵書目録の調査をさせていただくことができた。水口藩は彦根藩と同じく近江国の藩であり、同時代の他藩の蔵書を知ることは、井伊家の蔵書目録の分析に有意義であった。最後に、本研究で得られた研究成果を詳述した報告書1冊を印行し、関係機関や研究者へ配布することによって、本研究の成果を提供した。
|