本課題の最終年年度としてこれまでの調査、分析を総合的に考察し、以下の成果を得た。 (1)嵯峨本の活字セットをCGで作成、それを組版して異植字版、部分異植字版を作成することができるプログラム「古活字組版シミュレータ」(暫定版)を作成した。このプログラムによって、古活字版において異版が生まれるメカニズムや連綿活字、倍格活字を使用する意図を明らかにすることができる。プログラムは現在、一部の研究者にのみパスワードを通知して限定的にWeb上で公開している。 (2)キリシタン版と平仮名交り文古活字版の版面を詳細に比較、字母選択の制約、連綿活字の言語的機能、組版技法の違いなどを通じて、鋳造活字であるキリシタン版と木活字の古活字版では言語の単位化への認識が全く異なることを明らかにした。この成果は、「キリシタン版と古活字版 ―活字・組版にあらわれた言語認識の相違―」(国語語彙史研究会・第102回・2012年12月01日・関西大学)と題して口頭発表した。さらにその世界史的背景について論じた、論文「活字の論理 -日本語活字印刷史序説-」(『叙説』40号・118-134・2013年3月)を公刊した。 (3)平仮名交り文古活字版の活字規格と組版の類型とその活字書体の特徴を明らかにした。平仮名交じり文古活字版は、縦寸法の活字規格が全角の整数倍でそれをベタに組むものがほとんどである。縦寸法の規格がないものは『徒然草寿命院抄』など四点のみであり、本文全てがこの方式のものは烏丸本『徒然草』のみであることが判明した。慶長初期印行と推定される『徒然草』『源氏物語』では全角の整数倍の他に1・5倍格の活字があることが判明した。この成果については、「古活字版に見る平仮名交じり文書記様式と印刷技術との相克」近世京都学会第一回大会(2012年07月15日京都外国語大学)で口頭発表した。
|