22年度秋に追加採択を受け、当該研究の基礎となる小菊資料の十分な整理を目指して作業を行なった。これまでに未発表原稿や「日記」・「雑記」等の一次資料の翻刻はほぼ終わっているが、これらを、活字化して紹介していくためにも、小菊の作品や「日記」・「雑記」の内容の精査や、自筆原稿の調査を通しての執筆年次の確定など、解説作業が必要となってくる。22年度において、同時代の文壇状況の把握のための資料の一部の購入や、一次資料保護のための資料の画像データ化に必要な機器の購入を済ませ、資料精査と、資料の画像データ化作業を進めているところである。 これまで、「池田小菊未発表原稿「東京」」(弦巻克二・吉川仁子 白樺サロンの会発行『白樺サロン』第2号2009年3月)、「池田小菊未発表原稿「指」」(弦巻克二・吉川仁子 白樺サロンの会発行『白樺サロン』第3号2010年3月)等、未発表原稿を翻刻し、解説を付し活字化して紹介する作業を進めてきた。22年度は、活字化して発表することができていないが、昭和16年ごろに書かれたと推定される「思はぬ旅」という草稿の翻刻、解説はほぼ完了しており、活字化を急ぎたい。この作品は、未完ではあるが、志賀が去った後の奈良を作品の現在時間としつつ、作品内に、小菊が志賀のもとを始めて訪れた頃の回想を記した作品を、さらに配する形を取っている。志賀の妻康子の印象、教育実習生とのやり取りの中での志賀作品批判などが書かれ、志賀の奈良在住時の一面や、太平洋戦争直前の奈良の様子を窺う資料ともなり得る。また、小菊を取り巻く人々の資料収集も続行中で、目下、溝上泰子という奈良女高師出身の教育学者の調査をすすめ小菊との交流について明らかにしつつある。 23年度は未発表資料の解説紹介作業を進めていくとともに、戦時下の小菊の文学活動の解明を目標として取り組む予定である。
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