前年度に引き続いて、冷泉家と日野家に指示した歌人の資料を収集し、巻子本「公家書簡集」を購入するなどして、多角的に宗匠選択の問題を考察するための基盤作りに専念した。また、大和郡山柳沢家、長門萩毛利家、出羽鶴岡酒井家などの資料の継続的な分析に従事する他、内閣文庫所蔵「森山孝盛日記」の精読を通じて、松平定信登場前後の好学の幕臣達の動向を知るなどの作業を行った。さらに、近世中期の陸奥八戸南部家の当主南部智信の歌学資料を収集することにより、非常に限られた期間に集中的に伝書がもたらされた経緯が明らかとなり始め、大名と公家宗匠との関係を考える上で興味深い事実が見えてきている。特に日野家の大名門人獲得の戦略の内実がある程度明確になりつつあるので、この方面からの追究を、具体的な資料の裏付けを踏まえつつ展開していくことになる。そのための基盤作りに一定のめどが立ったというところである。 幕臣文化圏の産物といってよい『ひともと草』の注釈を継続して行ったのは従来通りである。
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