ちりめん本「日本昔話」(英語版)の各作品につき、典拠と翻案を明らかにすることと、諸本研究として、版表示が不明確なテキスト群の版種を識別することの2つであった。 典拠と翻案の研究では、記紀神話系3話 No.9“The Serpent with Eight Heads”(八頭ノ大蛇)、No.11“The Hare of Inaba”(因幡の白兎)、No.14“The Princes Fire-Flash & Fire-Fade”(玉の井)を中心に分析した。『八頭ノ大蛇』の場合、典拠は同じ著者であるB.H.チェンバレンの英訳“KO-JI-KI”であること。チェンバレンは、日本における“Kami”には、畏敬の念を起させることがないとして、“God”ではなく“deity”と訳していた。ちりめん本では、“deity”すら捨てて“fairy”として、説話全体も“fairy-tale”としたこと。この説話が海外に発信されたことを明らかにした。 諸本研究では、「再版」と表記されているもの、版表記のないテキストについて、グループ化の方法を見出した。その結果、調査しえた作品では、8~10種の異なり版候補(グループ化)を見出した。版表記が明確なテキストは15版から18版であり、15版以前の版種が8~10種特定できる可能性がある。これで第1次の諸本分類基準を見出した。今後調査データの拡大、本文の比較分析等より詳細にグループ内のテキストについて第2次の分析を行うことによって、異なり版候補の再分析を進め、版と刷との識別、詳細な版種の特定が可能である。
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