研究課題/領域番号 |
22520191
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研究機関 | 和洋女子大学 |
研究代表者 |
仁平 道明 和洋女子大学, 言語・文学系, 教授 (00042440)
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キーワード | 夏目漱石 / アジア / ヨーロッパ / 漱石文庫 / 渡航日記 / 滞英日記 / 中国 / 韓国 |
研究概要 |
夏目漱石のアジア観、ヨーロッパ観については、従来の大方の見方は、ロンドン留学の体験を経て漱石はヨーロッパを相対化する視座を有していたものの、アジア-中国・朝鮮に対しては帝国主義・植民地主義の枠組からの発想を脱することができなかった、そしてそれがその時代の日本人としての漱石の限界であったとするものであった。本研究は、漱石の作品・日記・書簡等に限らず、東北大学蔵漱石文庫の資料を検討し、「渡航日記」「滞英日記」等諸資料の漱石全集未翻刻部分の記事を調査・研究することを中心に、漱石のアジア観、ヨーロッパ観に再検討を加え、ほぼ通説化しつつある上記のような見解とは異なる漱石像を再構築することを目的とし、そのアジア観とヨーロッパ観を独立的に検討するだけではなく、連関させて並行的に検討し、さらに総合するものであった。平成23年度は、これまでに収集した「朝鮮写真帖」等のアジア資料と「渡航日記」「滞英日記」等のヨーロッパ関係資料の分析に加えて、未収集であった「韓国鉄道線路案内」「南満洲写真大観」「紅参専売及人参税法規類纂」「極東の外交」等の朝鮮・満洲等に関する諸資料とそれへの漱石の書き入れの調査・研究を重点的に行うことを予定していたが、東日本大震災による図書館の被害の復旧を待って調査と資料の撮影を行ったため、収集資料はその一部にとどめ、イギリス留学中に漱石が訪れた博物館・美衛館の図録等の一部の撮影による資料収集と分析、これまでに収集してきた資料の分析と検討を中心に行った。 なお、その成果の一部は、平成24年4月に入ってのものではあるが韓国の釜山で開催された韓国日本研究総連合会(4学会)の学術大会におけるシンポジウムで漱石のアジア観を中心に報告し、またその国家観の背景にある人間観・価値観については、平成23年12月に刊行された一般誌の漱石特集(仁平道明・前田智彦共編)で公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究実績の概要」にも記したように、漱石文庫が収められている東北大学附属図書館に、昨年春の東日本大震災で大きな被害があり、そのため調査、資料収集とその収集資料の分析・検討に遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度の災害による調査の遅れを回復するために、東北大学附属図書館漱石文庫の調査・資料収集の回数を増やすとともに、その資料の整理を依頼する人数も増やし、分析・検討のための準備作業の効率化をはかることとする。 また3年の研究期間の最終年度にあたる本年度は、その成果の公表により積極的に努めることとし、その成果の国際的な意義を考慮して、海外での成果発表を行うこととしたい。(平成24年秋には、漱石のアジア観と深く関わる、中国の旧満洲地域である吉林省の大学で開催される講演会での公表と中国の研究者との討論・検討を予定している。)
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