薄田泣菫は日本近代詩の代表の一人にして名随筆家、また後年は『大阪毎日新聞』文藝部長として明治期から昭和にかけて、文壇に多大な影響をのこしたが、これまでの研究にはやや頭打ちの感があった。が、近年、1000通以上にのぼる書簡が、泣菫遺族から次々と泣菫生誕の地である倉敷市(文化振興課)に寄贈・寄託された。内容は多岐にわたるが、芥川龍之介、菊池寛、与謝野晶子・鉄幹、志賀直哉、武者小路実篤など、日本近代文学に大きな変革と実績をもたらした作家達をはじめ、その周辺に位置する多数の詩人・作家・出版人たちからもたらせられたもので、これらの書簡類を整理・分析することは、ひとり泣菫の文業を顕彰するのみならず、広く同時代の作家達を照り返すことであり、ひいては日本近代文学史の欠落していた側面を補填する画期的な研究と位置付けることができる。 今回の3年間にわたる作業では、書簡類の分類・撮影、年月日の確定、読解などの基礎準備を慎重に進め、作業に入り2013度中に翻刻と注解・考説を冊子化してその第一巻を出版する予定である。 この間、倉敷市文化振興課、薄田泣菫顕彰会をはじめ多くの協力者のご支援をえ、広く本活動を顕彰していただき、学界のみならず、一般にも認識を新たにしてもらえることができた。
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