本年度は、三年間の研究期間中の初年度にあたり、基礎研究としてできる限り多数の物語絵作品を熟覧・調査することを主眼とした。絵本・絵巻等絵画資料を中心として、特に以下のような作品について熟覧・調査を行った。「伊勢物語」(駒澤大学図書館所蔵)、「村松物語」、「田村の草子」、「木曾物語」、「住吉物語」(三冊本・一冊本)、「舟のゐとく」、「武家繁昌」、「長良」(以上國學院大學図書館所蔵)、「平家公達絵模本」、「義経軍記絵巻模本」、その他の関連古典籍として「清輔奥義抄」、「綺語抄」、「永久百首」、「日吉社五十番歌合」(以上金刀比羅宮所蔵)、「平家公達草紙模本」(東京国立博物館所蔵)。本研究が対象としている平安・鎌倉期の物語の絵画資料だけでなく、多彩な絵画資料を多数実見できたことは、作品の絵画化の展開を把握することにつながり、今後の研究の推進にあたってきわめて大きな収穫であった。また、五回にわたって行った研究会では、主に、平安時代の歌物語「伊勢物語」が絵物語として享受されていくプロセスや、「平家公達草紙」の絵画化についての問題等を多角的に検討したが、特に「平家公達草紙」が平安・鎌倉物語文学の光芒を放つ物語として鑑賞し得ることと、その絵画化された場面との連関性にメンバーの興味が集約されつつあり、新しい視点での研究の可能性の萌芽が見えたと思われる。また、基礎資料の蓄積の一環として、駒澤大学図書館所蔵の奈良絵本「伊勢物語」について、その調査結果と画像の概要をまとめたものを、「駒澤大学図書館所蔵『伊勢物語』(奈良絵本)の概要」と題して『駒澤日本文化』第4号に発表し、資料の共有化と研究情報の発信を行った。その他の本年度蓄積した基礎研究に加えて、次年度では、さらに研究内容の精度を高めて、研究成果の発表へとつなげてゆきたい。
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