本年度は、3年間の研究期間の最終年度にあたるので、昨年度・一昨年度に積み重ねてきた基礎研究の充実をはかりながら、これまでの研究活動の総括をすることを大きな目標とした。 まず、基礎研究として、今年度は以下の作品について熟覧・調査を行った。「平家公達草紙」(宮内庁書陵部所蔵)、「平家公達草紙」(福岡市美術館所蔵)、「尹大納言絵詞」(福岡市美術館所蔵)。 さらに、本年度は3回にわたって会合を持ち、昨年度までにメンバーの興味が集約されつつあることを確認した『平家公達草紙』を中心とした平安・鎌倉物語文学について知見を広めるための作業を進めた。『伊勢物語』については、昨年度までに基礎資料の蓄積の一環として行ってきた駒澤大学図書館所蔵の奈良絵本「伊勢物語」の調査結果を基に、本文と絵の関わりに着目しつつ当該本の絵の読み解きの作業を進めた。 年度末には、これらの研究成果の総括として、『伊勢物語』や『平家公達草紙』を中心とする平安・鎌倉物語作品の文学としての価値、その絵画化された場面との連関性の問題についての考察と資料(翻刻)を収録した研究成果報告書を公表した。基礎研究の充実をはかりながら、平安・鎌倉物語文学における絵と本文の関わりにターゲットを置いた本共同研究において、『伊勢物語』のように絵と本文の読み解きが相互に作用しあって再生産されていくという作品享受のありようや、『平家公達草紙』のようにこれまであまり取り上げられなかった作品の文学性・芸術性を発掘するという具体的な目標に一応の総括がつけられたことは、物語絵の研究史においても新しい視点を打ち出せたことになり、意義が認められよう。
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