研究概要 |
本課題研究では,うなづき構造の史的発展過程において現在の文楽の前段階に位置付けられる鉄砲ざしの操り方を検証し、文楽の高度な人形操作への発展過程について考察を行うことを目的とする。本研究で取り上げる資料は神奈川県の相模人形芝居五座で伝承されてきた江戸系鉄砲ざしである。五座の古い伝承者に聞取調査を行い,調査結果を整理し,今や消えようとしている鉄砲ざしの遣い方を文字と映像によって資料化する。その上で,その資料をもとに文楽の操り方と併せて考察することで,鉄砲ざしから文楽の操り方への発展過程の解明を目指す。 五座の聞取調査のうち,既に足柄座・前鳥座は終了している。本年度は林座の座長・座員・古い関係者等に聞取調査を計三回行った。その中で主なかしらの実見,古い遣い手のかしらの持ち方・構え等の撮影を行った。また,座の関係者所蔵の古い舞台写真や台本類を収集,複写して資料とした。戦前戦後の様子を直接知る人は既に少なくなっていたが,一例をあげるとかつては人形衣装の裾に握る玉がついていて,足の動きは細かな裾裁きはなく,大きな動きであったことなど,大きくおおらかに演じられていた様子など,かつての人形の演じ方・操り方等に関する証言を得た。また,再現映像の演目(場面)を,絵本太功記十段目木登りから段切りまでに決定し,必要なかしらの制作に取り掛かった。演目選定の理由は江戸系鉄砲ざしの遣い方や型が分かりやすく,いきる場面ということである。 鉄砲ざしのかしら研究としては,以前に調査を行っていた国立歴民博所蔵の阿波人形のかしらについて,「国立歴史民族博物館所蔵阿波人形のかしら-天明四利重作子供かしらを中心に-」(『民俗と歴史』29号,2011年3月)として資料紹介し,その価値を論じた。
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