研究概要 |
本課題研究は,うなづき構造の史的発展過程において現在の文楽の前段階に位置付けられる鉄砲ざしの操り方を検証し,文楽の高度な人形操作への発展過程について考察を行うことを目的とする。本研究で取り上げる資料は神奈川県の相模人形芝居五座で伝承されてきた江戸系鉄砲ざしという遣い方である。本研究ではまず,五座の古い伝承者に聞取調査を行い,調査結果を整理し,今や消えようとしている鉄砲ざしの遣い方を文字と映像によって資料化する。そして,それらの資料をもとに現在の文楽の操り方と併せて考察することで,鉄砲ざしから文楽の操り方への発展過程の解明を目指す。 五座の聞取調査のうち,南足柄市の足柄座と平塚市の前鳥座は概ね終了していたが,本年度に急きょ,前鳥座で今まで未接触だった旧座員と連絡が取れため、追加で2回聞取調査を行った。前鳥座に関しては更に追加の調査として,かしら・道具類の撮影・記録を行った。また,座の関係者所蔵の古い舞台写真や台本類を収集,複写して資料とした。今回の聞取調査で,戦前戦後の様子を直接知る人は既に少なくなっている中,前鳥座の戦前から戦後にかけての中断・復活の事情や上演の機会・稽古の様子・人形の遣い方等について複数の方からいろいろな証言を得ることができた。また,厚木市の長谷座に関しては、戦前戦後の座のことを知る旧座員で当時のことをお話いただける方を探索したが高齢や健康状況,転居等のため,今年度見出すことはできず,聞取調査は実現しなかった。長谷座の話者については今後も探索を継続するつもりである。長谷座資料としては他に,旧座長宅より新たに浄瑠璃の床本類が発見されたので,まず本格的な調査のための予備調査を行った。 一方、再現映像の演目(場面)を,絵本太功記十段目木登りから段切りまでに用いるかしらのうちの光秀かしらが完成した。もう一つの必要なかしら久吉の制作に向けて打ち合わせを行った。
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