平成22年度は、『新日本文学』の本誌・関連紙誌の収集をまず行った。特に復刻縮刷版以降(500号)以降の号を揃えることに力を注ぎ、数冊を除き、集めることができた。総目次を作る条件は整ったので、今後は特に1950年代・60年代を中心に、詳細な索引を作るようにしたい。 関係者の聞き書きについては、大西巨人・武井昭夫・湯地朝雄氏に話をうかがった。新日本文学会に関する話はもちろんのこと、現代芸術の会や綜合文化協会、あるいは戦後の学生運動に関する話を聞くことができた。聞き書きは、順次、文書化し、発表あるいは冊子化する予定である。その第一弾として、「大西巨人氏に聞く--「闘争」としての「記録」」を発表した。このインタビューは、『近代文学』同人から新日本文学会の事務局常任であったまでの時期を中心としたものであり、『近代文学』脱退の理由など、これまで明らかでなかったことについての言及を数多く含んでいる。大西巨人研究については、「大西巨人・連環体長篇小説考--『地獄変相奏鳴曲』・『神聖喜劇』における回帰の弁証法」をまとめた。太郎・瑞枝という一組の夫婦が登場する作品を通覧して、戦後社会に対する批判意識があることを指摘した。大西文芸が60年代以降の時期を扱わないのは、経済成長重視の風潮を潔しとしないためであろう。『神聖喜劇』の『新日本文学』における連載状況にも留意し、雑誌収集の成果を反映させた。文学論争については、スカラベ-サクレ論争について、経過を踏まえて歴史的意義を問う発表を行った。これについては、次年度にも文章化も予定している。
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