研究課題/領域番号 |
22520202
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
日向 一雅 明治大学, 文学部, 教授 (90079426)
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研究分担者 |
袴田 光康 明治大学, 文学部, 兼任講師 (90552729)
長瀬 由美 都留文科大学, 文学部, 准教授 (20553324)
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キーワード | 源氏物語 / 源氏物語注釈史 / 儒教的注釈言説 / 仏教的注釈言説 / 東アジア文化圏 / 河海抄 / 仏教説話 / 唐代伝奇 |
研究概要 |
平成23年度は、近世儒者の源氏言説、近世における儒教的な源氏批評について資料の網羅的な調査と収集を行った。これは資料集にまとめるが、データはほぼ完成した。宣長のいわゆる「もののあはれ」論が同時代において少数派の突出した議論であり、大方の賛同を得にくい議論であったことを証明する結果になろう。 源氏物語における儒教の問題について、日向は『源氏物語東アジア文化の受容から創造へ』(平成24年3月刊)において『尚書』の影響の大きいことを論じた。しかし、この点に関して長瀬は『河海抄』等古注釈書の儒教的言説を調べてゆくと、『尚書』『礼記』等の儒教の経典そのものを引用するのではなく、儒教的理念を明確に示す白居易「調諭詩」や策林の引用に拠るという態度が認められると言う。古注釈書にみられる、白居易詩文を通して儒家的思想・理念を把握するという態度は、中世に至ってのものなのか。源氏物語の成立した平安中期以来の文人達、作者紫式部にも共有された態度であって、それが古注釈書にも表れているのか、この点は厳密に解明する必要があると言う。長瀬の成果は「一条朝の文人貴族と惟宗允亮-源為憲詩を起点として-」に纏められた。 仏教の問題については、日向が光源氏の出家と『過去現在因果経』の仏伝とを比較した論文を纏めた(上掲著書)。袴田は『三宝絵詞』について研究を進めた。従来、『三宝絵詞』と『源氏物語』との関連性は注目されて来なかったが、浮舟に関して語られる「帝釈天」の故事は、『三宝絵詞』と密接に関係しているとする論文を準備している。また、若紫巻の「なにがし寺」の準拠とされる大雲寺跡地の実地調査も行い、調査報告をまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成22年度は源氏物語の享受層を注釈書の流布状況から明らかにするために、『河海抄』の奥書、識語、勘記などの調査を行い、23年度は近世儒者の源氏物語批評、儒教的な批評言説を網羅的に調査した。これらはデータにまとめた。明治大学図書館蔵『源氏物語聞録』「花宴」巻の翻刻を行った。これは近世武家の享受史料。仏教的な批評言説は近世になると影を潜めてくる。仏教は中世の源氏物語享受の特色として位置づけうるであろう。しかし、作品の構造としては新たな見直しを検討している。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に従い、平成22・23年度には本研究テーマに関わる注釈・享受資料の一覧表の補充や新規資料の発掘、翻刻を行った。新規資料としては徳島藩における講義資料と見なされる、明治大学図書館蔵『源氏物語聞録』全7冊の内、「花宴」巻の翻刻に続いて、「葵」巻の翻刻を行う。本資料は武家社会における源氏物語享受の実態を明らかにする興味深い資料である。近世儒者の源氏物語批評、儒教的な源氏物語批評言説の資料調査を進め、データにまとめているので、それらの分析を進め、中世から近世にかけて源氏物語の読み方に起こった変化を明らかにする予定である。仏教に関しては作品論としての検討と併せて中世における仏教的批評言説を捉え直す。
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