本年度は、調査拠点となる地域のうち愛知県名古屋市、愛知県豊橋市、三重県桑名市に関する文献資料の複写と収集、ならびに地域の方へのインタビューを行った。 まず、名古屋市に関しては、狂言方和泉流佐藤友彦氏所蔵のワキ方高安流豊島要之助伝書について、飯塚が複写(写真撮影)を行い成果を資料翻刻の形で発表した。和泉流と高安流はいずれも旧尾張藩お抱え役者で、名古屋の能楽を牽引してきた流儀である。本資料により、能楽演出の地域的な独自性について解明する足掛かりを得た。また、米田は大倉流大鼓方算鉱一にインタビューを行い、昭和30年代の名古屋の能楽興行について情報収集を行った。 豊橋市に関しては、明治時代以来、地域住民による演能が行われていた魚町伝来の狂言伝書資料について、米田が安海熊野神社で写真撮影と書誌等の調査を行い、その成果を豊橋市民が聴講できる形で口頭発表した。また、資料目録を作成し、魚町自治会ならびに資料館に寄贈した。また、資料内容の精査から、伝書の相承について、従来知られていた能面や装束同様、旧吉田藩から伝来したものが含まれているとの知見を得た。 桑名市に関しては、明治維新直後に行われた能楽興行について米田が文献資料の調査を行い、本興行が戦災で焼失した神社の再建目的であったとの知見を得た。本件に関しては、大垣市の調査と併せ、来年度内に論考を発表する予定である。
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