本年度は、調査拠点となる地域のうち豊橋市、岐阜市、名古屋市に関する文献資料の複写と収集、ならびに地域の方へのインタビューを行った。 まず、豊橋市に関しては、明治時代以来、地域住民による演能が行われていた魚町伝来の狂言伝書資料について、前年度までの現地調査に基づき、伝書所載の人名について整理した。また、伝書の本文調査にもとづき、伝書の系統が、①江戸時代に吉田藩士が用いたもの ②魚町町人が用いらたもの、③近隣の新城市で上演されていた台本の影響を受けたもの の3種に分類されることが明らかにできた。この成果は、『名古屋芸能文化』第22号に論考を発表した。 岐阜市に関しては、明治~昭和前期の番組をもとに、当地で稽古されていた観世流の謡の系統が、明治30年代後半に京都風から東京風に変わったこと、さらに、それは東京における観世流家元の発展と関連があるとの知見を得た。この成果は、『東海能楽研究会年報』第17号に発表した。 名古屋市に関しては、前年度に引き続き、大鼓方大倉流筧鉱一氏預かりの、近年まで名古屋や岐阜で弟子の指導を行っていた、大阪のシテ方観世流下田雄三氏旧蔵書に関する調査及び複写(写真撮影)を行った。本調査により、戦前の名古屋における能楽興行の実態について重要な知見を得た。また、放送を介した伝統芸能の享受の一例として、昭和20年代・30年台のCBC(中部日本放送)におけるラジオ劇関係資料について調査を行った。 なお、前年度に調査を行った桑名市の芸能に関する報告を、桑名市中央公民館主催「くわな市民大学講座」にて発表した。
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