本研究の目的は、日本における唯一の填詞専家と言われる森川竹〓の作品の訳注を作成し、日本詞の一つの頂点を示している彼の作品の文学的な価値の一端を明らかすることである。その作品世界を明らかにすることによって、今後『詞律大成』に代表される彼の詞学研究の成果についても正当な評価を与えていけるものと考えている。 本研究は、竹〓の死後に久保天随によりまとめられた詞集『夢餘稿』影印本を底本として訳注作業を進めていくが、ただこの『夢餘稿』には収録されなかった作品も有り、また『夢餘稿』に収録されていても雑誌掲載時と本文が異なっていることもしばしばあって、正確な訳注を作成するためには諸種の雑誌掲載本文との厳密な校訂が必須である。この整理校訂作業は前年度に開始して、予定通りのペースで進めていった。平成23年度は、前年度に行った整理校訂作業をさらに継続して行うとともに、それらを基礎として竹〓の詩詞を読み進める作業も行っていった。竹〓は、友人・知人との贈答や唱酬の作品を多く作成しており、それらの綿密な分析を通して竹〓の事迹を編年化してとらえる作業も進めた。その研究成果として「森川竹〓年譜稿(上)」を発表し、特に竹〓の前半の生涯を明らかにしえた。平成23年度は、こうした研究調査に必要な各種資料や明治期の雑誌、また周辺の詩人・作家等に関する書籍を科研費によって購入した。また国内旅費を使用し、各所蔵機関での資料の調査や訳注に協力して下さる宋詞研究会の方々との打合せなども行った。
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