1 狛氏における芸道の継承と楽書の生成についての研究 鎌倉時代以降、南都興福寺属の楽人狛氏の周辺では、多くの楽書が編まれてきた。それらは、家で受け継がれるべき口伝や秘伝などを子孫に伝えるため、芸道を継承していくために編まれたものと考えられる。室町時代前期には、近真の子孫である狛正葛によって『竹舞眼集』という楽書が編まれる。この楽書には、狛氏で代々受け継がれてきたと推される楽書(『教訓抄』、順良房聖宣『舞楽府合鈔』等)が引用されている。楽書は、家に伝えるべき口伝・秘伝等がテキストとして現出したものともいえる。そうすると、狛氏に受け継がれてきた楽書を引用する『竹舞眼集』は、家に伝わる秘伝を集積したテキストであるとも考えられる。本書に記される引用文献を検討することで、狛氏での芸道の継承のありようが明らかになるのみならず、芸道において次代に受け継ぐべき重要な伝承が、どのようにしてテキストとしてあらわれ、そして家の中で受け継がれていくのか、芸道の継承とテキスト生成の連関の具体的様相をうかがうことができる。上記の内容を、「狛氏における家と秘伝の相承―『竹舞眼集』を中心に―」として研究報告を行った。 2 研究会の開催 外部の研究者を招き、平成24年11月17日(土)に研究会を開催し、『教訓抄』編者である狛近真以後の狛氏における楽道の継承と、それに関わって楽書が生みだされていく様相についての研究報告を行い、あわせて研究に関わる情報収集、情報交換を行った。 3 資料調査 大阪府堺市長谷寺所蔵『長谷寺縁起』(室町期写)・『堺長谷寺縁起』(江戸期写、ともに大阪市立美術館所寄託)は、縁起とともに音楽を伴う大規模な法会が描かれており、説話研究及び音楽史研究において重要なものといえる。そこで、平成24年12月8日(土)、平成25年1月12日(土)の2日間にわたり、両縁起の調査ならびに撮影を行った。
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