23年度は、『源氏物語』の初期注釈書である『奥入』を中心に研究を進めた。『奥入』は、定家作の『源氏物語』注釈書で、『源氏物語』の注釈書としてはごく初期のものであり、後世のさまざまな注釈書が引用することからも、その影響の大きさが伺える。 この『奥入』の諸本を池田亀鑑が整理し、現存する定家筆本および大島本、伝明融等筆本巻末付載勘物を「第一次奥入」、別冊にまとめられた自筆『奥入』その他を「第二次奥入」と整理して以降、『源氏物語』巻末付載勘物と別冊にまとめられた『奥入』の先後関係についての論は多い。 「定家『奥入』の諸問題」(『中世の学芸と注釈』竹林舎二〇一一・九)では、これら『奥入』諸本の問題点について以下のように整理・考察した。いわゆる「第一次奥入」・「第二次奥入」は、「第二次奥入」・「第一次奥入」の順で成立したこと、いわゆる「第一次奥入」の原態は、自筆本『奥入』とは直接重ならない別冊単行『奥入』と想定されること、巻末付載『奥入』は、巻によってさまざまな系統を有しており、一つの本文系統として認定することはできないこと、付け加えるに、大島本巻末付載『奥入』自体も一つの系統として認めるには躊躇されること、そして、巻末付載や別冊という形態と、『奥入』本文の分類は重ならないことを考察した。 さらに「別冊『奥入』諸本の整理と特徴」(『源氏物語の展望』第十輯二〇一一・九)において、別冊形態の『奥入』諸本を整理し、自筆本系(甲類・乙類)・内閣文庫本系・源語古鈔系に三分類し、それぞれの指標を詳しく述べた。 これらの基礎作業によって、『奥入』の変容過程の解明が今後さらに進むことが期待されよう。 また、前年度に引き続き、正宗敦夫収集善本叢書の刊行も手がけた。
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