本研究は、英国ルネサンス演劇に特徴的な、一つの劇に複数の筋が共存するいわゆる「多元的プロット」の存在意義を、おもに観客の観劇意識に訴える作者の配慮の一環と捉えることによって解明しようとする研究である。具体的には、ロバート・グリーン(Robert Greene)の『修道僧ベイコンとバンゲイ』(Friar Bacon and Friar Bungay)とヘンリー・メドウォール(Henry Medwall)の『フルゲンスとルークレース』(Fulgens and Lucres)を対象に研究を行った。 その結果、グリーンの『修道僧ベイコンとバンゲイ』においては、"state"の概念が多元的プロット構造の結節点になっていること、さらにこの"state"概念は、大学、国家、身分という複合的な意味を担ってこと、等の新知見を得た。後者の『フルゲンスとルークレース』においては、観客の現実世界と劇の虚構世界との間に明確な境界線が設定されず、虚構世界の問題は観客の現実の「いま・ここ」と密接な関係性を保ち得るという観劇意識が「多元的プロット」生成の核に存在し、この意識は"pageant"の概念に集約されていること、等の新知見を得た。
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