本年は、『レディーズ・ホーム・ジャーナル』を研究対象に据え、自然や環境に関する言説を抽出して考察した。その結果、1898年以前に同誌にみられた自然の表象は、1899年の過渡期を経、1900年以降のものとは大きく違って描写されていることを指摘した。広告から小説作品における自然の表象を考察することをとおし、保守的な女性像を提唱する時代には、美しい花を咲かせるガーデニングをすることで自然との接触を勧めていた同誌の言説は、国家の発展や、女性の社会への進出に伴って変化していく。つまり、理想のガーデンの住人としての女性像を強調し、美しい花が象徴していた限定された空間に存在する自然の表象が、時代の推移とともに、象徴性を消失し、より現実的な性質を提示するようになっていく。例えば、西部という辺境地帯の描写や、猛威を振るう自然の力などの、人知を越えた一様相を提示するようになっていく。自然の表象を操作し、女性読者の空間意識を拡大することにより、アメリカが本格的に帝国主義政策へ乗り出していく19世紀末に、それに加担する国民を養成する媒体となった可能性を指摘した。 以上のように、「自然」の表象を考察することをとおし、アメリカ女性大衆雑誌は、当時の女性読者の娯楽のための一媒体として存在するのではなく、また、多くの読者を中心とする女性文化を形成する主力となっただけでもなく、「国民」としての認識を養うという政治的な役をもっていたという一面を指摘した。
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