昨年度の研究成果から、当初、研究初年度に予定していたThe Ladies' Home Journal (以下、LHJと記す)とWoman's Journalの比較検討を断念した。LHJという大衆女性雑誌と、女性参政権運動を推進していたThe National Woman Suffrage Associationの機関紙であった後者の言説を比較することで、同時代に存在した、関心の異なる女性たちの思想を広く考察できることを見込んだ研究計画だったが、扱う2つの雑誌の言説の違いが大きすぎたため、「比較」という方法論に現在のところ意味を見い出すことは困難であると判断した。その為、本年度も、研究対象をLHJだけにしぼり、「自然」や「環境」に軸を据え、19世紀末から20世紀初頭の女性たちの視点を考察した。 次の点から研究を進めた。第一に、平成22年度に行った「庭」の表象の変遷から女性たちの空間認識が拡大し、それがアメリカ帝国主義の国民育成につながったことを考察した研究に、「park」という理念を加えて分析をしている。第二に、家庭を主な活動領域とする女性たちが「自然」や「環境」を意識せざるを得ないであろう媒体として食生活を分析した。平成25年1月の資料収集のために訪問したアメリカニューヨークで、「料理」を専門に扱う古本屋を見つけた。図書館では希少価値が高くてコピーをとることが禁じられている、古い資料を入手することができたため、今後、分析を進めていく。第三に、第一次世界大戦中のLHJの言説を対象として、戦争中の女性たちの環境への意識を考察している。この成果は平成25年6月に岩手大学を会場として行われるシンポジウム(「世界大戦期の文学における<女性>」)で発表予定である。第四に、前述の「庭」の分析を含めたアメリカ女性と「自然」についての論文をまとめ、信山社から今年出版予定の著書の準備をした。
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