本研究の初年度にあたる当該年度は、広く文献・映像等の資料を調査収集するとともに、そこで得られた知見を迅速に公表すべく、こまめな成果発表にも努めた。この具体的な例としては2010年度中に発表した2本の論文および、計2回の国内外での口頭発表などが挙げられる。このうち、東北英文学研究(『英文学研究支部統合号』)に掲載された論文「『お人好し』における感受性の経済効率」は、18世紀のアイルランド人劇作家オリヴァー・ゴールドスミスの事実上の処女戯曲『お人好し』(1767)が、当時のロンドン演劇界で主流を占めていたセンティメンタリズムの言説とどのように交渉していたかを論じたものである。また、Studies in English Literatureに掲載された論文 "I'll go romancing: The Composite Nature of Storytelling in The Playboy in the Western World" では、20世紀初頭のアイルランド人劇作家J.M.シングの代表作品を扱い、そこで用いられた "Hiberno-English" と呼ばれるアイルランド英語の使用が、文化的ナショナリズムと絡む重要な問題であったことを指摘している。 このような研究課題をきわめて直接的に扱った論文の執筆のほか、口頭発表では対象を少し拡大し、本研究課題を拡充するようなかたちの研究をも遂行した。この具体例としては、台湾大学(台北市)で行った口頭発表 "Magnificent Seven Shakespeares:Inventing Shakespeare's Biography as Manga" などが挙げられる。この発表では、英文学のキャノンであるシェイクスピアを、現代日本の漫画がどのように受容しているかを論じ、言語(英語/日本語)、メディア(演劇/漫画)、人種(アングロ=サクソン/アジア人)など、ハロルド作石『7人のシェイクスピア』という漫画のなかで、さまざまな異文化同士の交渉が試みられていることを検証したものである。次年度以降も、こうした18世紀演劇を超えた時代の作品における言語使用と他者表象の問題も、本研究会題のサブテーマとして扱っていく予定である。
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