研究概要 |
本研究課題の最終年度に当たる当該年度は、過去3年間に得られた知見を成果として国際的に発表することに力を入れた。2年目および3年目の段階で、本研究が最初に設定した課題である「英語演劇のテクストにおける非標準英語使用を通じた他者表象」を進めるうち、翻訳や受容を通じた比較文化的な他者表象論へと研究のスコープが拡大した。そのため、本年度の研究成果の多くは比較文化的な要素を含んでいる。 口頭発表における最大の成果は、2013年6月にモンペリエ大学(フランス)で行った ‘A Macbeth Playing Baseball: Shakespeare Adopted into Japanese Crime Fiction after 3.11’, である。これは、シェイクスピア『マクベス』を下敷きにした伊坂幸太郎の野球小説『あるキング』を題材に、『マクベス』における「イングランド=中心/スコットランド=周縁」という枠組みがいかに、東日本大震災後の日本の文化政治上の地図「巨人(東京)=中心/楽天(東北)=周縁」に換骨奪胎されているかを論じたものである。 論文での大きな成果は『英文学研究』英文号第55号に掲載された ‘“Let us see what our painters have done for us”: Garrick and Sheridan on the Spectacularization of Drury Lane’ である。これは、ユグノー派フランス系移民であったギャリックとアイルランド人のシェリダンという、イングランド社会の周縁にいた二人が、ドルリー・レイン王立劇場というロンドン演劇界の中心で、どのように自己成型していったかを論じたものである。 後者の業績が取りあげた問題は継続的な研究課題として今後も掘り下げ、3年以内に単著として最終成果を発表する予定である。
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