本研究は、アメリカ文学の代表的な作家であるマーク・トウェインの晩年期に焦点をあて、彼の反帝国主義言説を分析することによって、その修辞の特徴ならびに思想を明らかにしようとするものであり、マーク・トウェイン研究史において相対的に看過されてきたその晩年像の構築に積極的に寄与することを目指している。コロニアル時代の元凶であるヨーロッパ列強の「白人文明」に警鐘を鳴らし続けたトウェインの晩年の思想を、ポストコロニアル時代の今日の視座から分析する。本年度の実績は以下の通り。 1.アメリカ西部の開拓地に生まれたマーク・トウェインの生涯を、同じ年にヨーロッパの王宮で生まれたベルギー王レオポルドII世の生涯と対照的に俯瞰するような視座から捉え、同王の私領であるコンゴ植民地の残虐な原住民支配を痛烈に批判するトウェインを彼の没後100年の年に考察した。(井川眞砂、「マーク・トウェインの生涯」、『マーク・トウェイン文学/文化事典』[彩流社、2010]所収、pp.22-42)。 2.単なるユーモア作家にとどまらぬマーク・トウェインは、晩年、戦争に代わる有効な武器、すなわち「笑いの武器」を提唱し、その担い手に多数の一般庶民を構想する。こうした一般庶民に寄せるマーク・トウェインの基本的な信頼と期待は、いったいどのようにして育まれたものなのか。その思想的背景は、彼が示した「労働騎士団」への大きな共感に見出せるのではないかと論じた。(井川眞砂、「マーク・トウェインと労働騎士団」、『文学・労働・アメリカ』[南雲堂フェニックス、2010]所収、pp.155-194)。 3.トウェイン研究資料の収蔵/研究センターである「マーク・トウェイン・ペイパーズ&プロジェクト」(カリフォルニア大学バークリー校)の学術図書編集活動のいまを報告した。(井川眞砂、「マーク・トウェイン・ペイパーズ&プロジェクト再訪」[『マーク・トウェイン研究と批評』第9号、2010]、pp.4-8)。
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