研究課題/領域番号 |
22520225
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
井川 眞砂 東北大学, 大学院・国際文化研究科, 教授 (30104730)
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キーワード | アメリカ文学 / マーク・トウェイン / 反帝国主義 / 笑いの文学 / 世紀転換期(1890-1910) / 反植民地主義 / 反キリスト教文明 / ボーア戦争 |
研究概要 |
本研究は、アメリカ人作家マーク・トウェインの晩年期に焦点をあて、彼の反帝国主義言説を分析することによって、その修辞の特徴ならびに思想を明らかにしようとする。それというのも、トウェイン研究史において相対的に看過されてきた晩年像は、いまだ明確になっているとは言い難いからである。本研究は、トウェイン晩年像の構築に積極的に寄与することを目的としている。 単なるユーモア作家にとどまらぬトウェインは、帝国主義に立ち向かうために「笑いの武器」を提唱する。本研究の実施計画では、1.この「笑いの武器」をアメリカ西部のユーモアの系譜の中で検討し、それがトウェインによって如何に変容させられるか、2.この「笑いの武器」の担い手に多数の一般庶民を想定する彼の階級意識はいかなるものか、それらを分析してトウェイン晩年の思想を考察する。 上記本研究の実施計画のうち、「笑いの武器」を構想するトウェインの思想的基盤については、平成22年度と23年度の研究実績によって、一定の成果を得たと考えている。すなわち、(1)井川眞砂著「マーク・トウェインと労働騎士団」、アメ労編集委員会編『文学・労働・アメリカ』(南雲堂フェニックス、2010)、155-94頁、平成22年度日本学術振興会科学研究費学術図書出版助成、(2)IGAWA Masago, "Mark Twain's Young Satan Asksa Question : Willa Day Come When People Have Developed Their Humor-Perception? Journal of the Graduate School of International Cultural Studies 19(2011) : 1-10.(3)井川眞砂著「少年サタンは問いかける-世の中の滑稽な事柄を笑い飛ばせる日が来るだろうか」、新英米文学会編『英米文学を読み継ぐ-歴史・階級・ジェンダー・エスニシティの視点から』(開文社出版、2012)、220-48頁。すなわち、トウェインは多数の庶民に歴史を動かす力を期待し、そこにひとすじの希望を抱いたのではなかろう、か。ここに導かれた結論は、いうまでもなく、これまでの晩年のトウェイン像に修正を迫るものだといえよう.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
トウェインの反帝国主義言説の修辞について、その分析と考察を2つの側面から実施する計画を立てたが、そのうちの第2側面、すなわち「笑いの武器」の修辞の基盤をなすトウェイン晩年の思想については、平成22年度と23年度の研究実績により、一定程度その成果が得られたと考えているためである。残りの第1側面、すなわち「笑いの武器」の修辞をアメリカ西部のユーモアの系譜の中で検討することを今年度の課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
トウェインの反帝国主義言説の修辞について、彼の提唱する「笑いの武器」をアメリカ西部のユリモアの系譜の中で検討する第1側面が、今後の課題である。西部のユーモアを身に着けたトウェインが、いかにそのユーモアを変容させるかを分析したい。 アメリカ西部のトール・テイルやホークスが、さらに広い地球規模の視野のもとに社会性が付加されるとき、それはトウェインによって如何に変容させられるかを分析することになる。世界を一周する『赤道に沿って』の船上で、1896年、トウェインは、P.T.バーナムの<真>と<偽>の境界を撹乱する「ほら話」のアナロジーを滑り込ませ、大英帝国植民地官セシル・ローズの<真>を装った<偽>を読み取って笑い飛ばすのである。その笑いの構想はじつに壮大であり、地球規模の社会性を具備する。その大きさが、アメリカ西部のユーモアを変容させるトウェインの大きさだと言えるのではないか。こうした修辞を「ほら話」の系譜の中で検討し、トウェインらしいその変容の様を具体的に見ていきたい。 その様は、アメリカ西部のユーモアの伝統が地球規模の大きなコンテクストの中に取り込まれ、社会性が付加されて変容させられていく姿になろうと予測される。こうして、トウェイン晩年の反帝国主義の修辞は、彼の思想を表現するものになっていくのだろうと思われる。
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