研究課題/領域番号 |
22520227
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高田 康成 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (10116056)
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キーワード | 世俗化 / シェイクスピア / ベーコン / 君主制 / 合理化 / 共和制 / 啓示 / 経験論 |
研究概要 |
本年度は、前年度に予定されていたが都合により先送りした「世俗化・合理化」という主題軸にそって、シェイクスピアの作品とフランシスコ・ベーコンの思想を比較検討した。比較考察の観点としては、(1)認識論的観点と(2)政体論的観点、(3)歴史論的観点、(4)学問論的観点の4つが考えうる。(1)では、ベーコンの思想は、伝統の権威によって古代・中世より継承されたきた諸観念を、経験的観測と実践的・功利的思考をつうじて批判検討するという所謂「経験論」であり、その伝統破壊的な特色は、所謂「エリザベス朝的宇宙・世界像」-1970年代の前半までティリヤード等により長らくシェイクスピア解釈の大前提とされてきた-の破壊というかたちで、『トロイラスとクレシダ』や『アテネのタイモン』等に見ることができる。しかしその方向性は、少なくともベーコンの場合のように、近代の自然科学的な認識には向かっていない。(2)では、『ニュー・アトランティス』が比較検討の中心になるが、要点としては、共和政的側面がなく逆に「ある種の啓示」に基づく君主政体であることが重要である。この点、シェイクスピアでは、ローマ史に基づく共和制の問題がかなり意識されていること対照的である。(3)では、上記(2)と関連するが、ユダヤ・キリスト教的歴史観が根本にあり、その伝統が、『ニュー・アトランティス』に見えるように、如何にギリシア的伝統と融合したかを見ることが重要である。(4)では、もとよりシェイクスピアに、ベーコンのような学問制度論を求めるのはお角違いであるが、artsという概念を頼りに、双方における「知」に対する態度を比較対象した。総じて、シェイクスピアすなわちベーコンとする同人説が繰り返し説かれてきたが、本研究に照らす限り、およそ共通するところは少なく、しかしその相違ゆえシェイクスピアの思想的立場を浮き彫りにするのに資すると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度のホッブズに続いて、今年度はベーコンを中心に考察を続行した。構想当初の順序とは逆になったが、この順番で行うことにより、ルネサンスの時代精神を体現するベーコンと、それとは時代を画したホッブズとの差異がより明確になり、シェイクスピアの思想をその後の哲学的思潮との関係で逆照射するという本研究の目的に資するところが多い。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、一昨年のホッブズ、昨年度のベーコンに続いて、ロック思想との比較検討を通じて、シェイクスピアと「近代」思想との関係について考察を行う。計画どおりである。
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