平成23年度は5年計画の2年目に当たり、「疑似カップル」とモダニズムの関係に関してより深い検討を行なった。 まず、6月末に英国ヨーク大学で開催された大規模なサミュエル・ベケット学会(Samuel Beckett out of the Archive)に参加し、"Beckett and Wyndham Lewis : The "Pseudocouple" in Modernism"という本研究のテーマに直接関連する研究発表を行なった。これは、ベケットはウィンダム・ルイスを敵視し、影響を受けたはずがないのに、二人の作家がともに「疑似カップル」という形象を主要作品で用いている理由を考察したものである。それは、モダニズムという現象に内在する、人間の機械化への志向が共通しているからではないかという仮説を立て、ベルクソンの笑い論やチャップリンの映画における機械化と喜劇の結びつきへも考察を広げた。 聴衆からも活発な意見や質問が出され、きわめて刺激的な研究交流を行なうことができた。また、最先端の研究者たちの発表を聞くことができ、人的交流を深めることもできた。 その後、この刺激を受けて、「疑似カップル」とモダニズムの関係を考えるには、機械化、喜劇に加え、ニヒリズムという要素が欠かせないことに思い至った。19世紀のフローベール以来、機械的で喜劇的な二人組という伝統的な形象は、神の死んだ時代特有の虚無と向き合うことになる。ルイスもベケットもその点では共通している。したがってShaneWellerの一連のニヒリズム研究を読むことにより、ニヒリズムへの理解を深めた。
|