今年度は研究の最終年度であったため、研究成果の1冊の書物としての刊行を目指していたが、残念ながらそこまでは至らなかった。しかし近い将来における実現への目途は立てることができた。 今年度はまず、前年度に口頭発表をしたテーマである、疑似カップルにおけるジェンダーの問題について日本語の論文を書き、アイデアをまとめ直した(未刊行)。具体的には、ジョン・マディソン・モートンの笑劇『ボックスとコックス』とギュスターヴ・フローベールの小説『ブヴァールとペキュシェ』の二人組がともに、イヴ・コソフスキー・シジウィックの言うホモソーシャルな男性同士のきずなに基づいて、女性嫌悪と同性愛嫌悪を特質としていることを突き止め、さらにこの19世紀的モデルが、20世紀の作品『メルシエとカミエ』(ベケット)には必ずしも当てはまらないことを論証した。 また、ウィンダム・ルイスの小説『ター』を読み返すことにより、ルイスが次の作品『チルダマス』で機械的二人組を創造する前段階の、分身的人間関係の機械的配置について考察を新たにした。 3月には英国チェスター大学の研究員で新進気鋭のベケット研究者デイヴィッド・タッカー氏を招聘することにより、ベケット研究の最先端に関して情報提供をしてもらっただけでなく、当研究のテーマに関しても有益な示唆を得た。 そのほか、モダニズム研究全般を視野に入れて、テクノロジーと文学の関係、人間関係の機械的表象について、当該研究を推進させるヒントを得るべく文献を渉猟した。
|