今年度は、18世紀後半から19世紀前半にかけて、イギリス本国の政治家、文人、東南アジア在住のイギリスの植民地官僚、植物学者、オリエンタリストたちと「東洋」の邂逅を具体的に調査し、その成果を部分的に発表することを中心とした。また、発表した際、有意義なフィードバックを得ることができ、それを糧に、さらに調査・研究を進めた。8月初頭にイギリスで行われた国際学会、ワーズワス学会で、サミュエル・テイラー・コールリッジ(Samuel Taylor Coleridge)の「クブラ・カーン」("Kubla Khan")に焦点をあて、その歴史的、政治的バックグランドを探った"Kubla Khan'and Orientalism"という講演を行った。この発表では、詩のテクストで"Kubla Khan"と呼ばれている元のフビライ・カーンと当時世界最大の帝国を築いていた清の乾隆帝との相違、通常「上都」(元の夏の都Shantu)と解されている"Xanadu"を"Xanadu"という表記を用いて書けたのは何世紀の何人であるかを証明し、清の夏の離宮と"Xanadu"の関連を示した。その成果は年度末に刊行された学会の査読論文集Grasmere2010に"'Kubla Khan'and Orientalism"として収録された。この学会で、ロマン派と清朝との関係が未開拓の分野であるとわかり、Xanaduと清朝初期の夏の離宮を訪れた最初のイギリス人、英国東インド会社のインドから陸路で清の首都に入る計画などの新しい歴史的背景をさらに掘り下げることが重要であると判明した。イギリス・ロマン主義研究に重要な未開拓分野の新しい知見を深めることを優先する意義は高く、イギリス・ロマン派と東洋のとの関係が新たな視点から考察できることがわかったため、繰越を申請してこの調査をさらに進めた。その一方で、ジャワの「毒の木」upasの生息状況、効能に関するヨーロッパ諸国が持つ強い関心について、10月に韓国のソウル大学の国際学会で"From Java to England:The British Encounter with the Poison Tree"という発表を行った。
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