本研究は、18世紀後半から19世紀前半の海外覇権への道を進む中で様々な「他文化」を国の内外に抱え込むことになったイギリスが直面した諸問題を、グローバリゼーションの初期の形態が孕んだ問題と捉え、現代のポスト・コロニアリズムの時代との相関性を考慮して、総合的に考察する試みである。今年度の前半は、ロマン主義とインドとの関係について「『この天来の小品』-シェリーの『インド風セレナード』再考」という論文を執筆した。7月の国際コールリッジ学会のために6月後半から来日していた海外から参加した研究者と意見交換をし、かつ、現在のロマン主義研究の様々な成果について吸収した。この研究交流を基盤に、今年度の後半は、南半球でのイギリスの調査航海と植民活動を中心に調査を進めた。特に、南半球で最初の職業画家となったイギリス人John William Lewin、フリーランスの立場でイギリスを最終的な拠点にしたAugustus Earleの二人の創作活動、創作活動を可能にした経済的地盤、イギリス本国とオーストラリア、ニュージーランドとの人的交流、物流を比較検討することで研究を進めた。本国政府の命令下にない立場で、自分の感性、意見を表現できる芸術家は、しかし、経済的基盤の脆弱さを克服するため、新たな画題、現地の「自然」・「文化」との新たな関係の構築に努めなくてはならなくなった。政府派遣の調査団の画家からオーストラリアに定住する道を選んだLewinも、五大陸全てにヨーロッパ人として初めて足跡を残し、その記録を文字テクストと絵画によって著したEarleも、まだ殆ど研究されていないので、資料収集がかなり困難であり、そのために今年度は研究が計画よりも遅れたが、今年度の調査は、2012年9月のRomantic Voyagesというニュージーランドで開かれる国際学会への口頭発表原稿へとまとめた。o
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