本研究は、18世紀後半から19世紀前半の海外覇権への道を進む中で様々な「他文化」を国の内外に抱え込むことになったイギリスが直面した諸問題を、グローバリゼーションの初期の形態が孕んだ問題と捉え、現代のポスト・コロニアリズムの時代との相関性を考えつ つ、総合的に考察する試みである。本年度は、ヨーロッパの植民地拡大に伴って、商品化、商業化される「自然」と「文化」の現実とそれが新しい国と言葉に移植されていく過程を日本の事例にも注目して検討した。前半は7月のオーストラリア・ロマン派学会の2年に一度の国際大会(本年度のテーマはGlobal Romanticism)での発表のための調査を行った。当該学会で“Percy Bysshe Shelley and Japan’s Anxiety of European Influence”という発表を行った。イギリス・ロマン主義が明治時代の日本でどのように受容・変容したかをPercy Bysshe Shelleyの試作品の島崎藤村、夏目漱石への影響、そして、シェリーと東洋の芸術感の比較から漱石が創出した「非人情」というコンセプトがもう一度西洋に戻された時の例を、20世紀のカナダのピアニストGouldの漱石への傾倒を指摘することで示した。この国際学会で、北米、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドからの研究者と有意義な討議を行った。そのフィードバックを参考とし、本年度の後半は、発表原稿の論文化、本年度までの研究の論考を纏めた。
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