研究概要 |
平成23年度は17世紀イギリスにおける火薬陰謀事件説教のうち新約聖書に基づく説教を研究対象とした。取り上げた説教は以下の通りである。1.Lancelot Andrewes, 1609年(Luke : 9.54-6) 2.Lancelot Andrewes, 1609年(Luke : 1.74-5) 3.John Hacket, 1624 (The Acts : 28.5) 4. Jeremy Taylor, 1638 (Luke : 9.54) 5. Anthon Brges, 1644 (Revelation : 19.2) 6.John Scott,,1673年(Luke : 9.56) 7.Thomas Lamplugh, 1678 (Luke : 9.54-6) 8.John Tillotson, 1678(Luke : 9.54-6) 9.William Lloyd, 1678年(John : 16.2) 10.Francis Gregory, 1679年(John : 16.2) 昨年度の研究はおおむね予定通りであった。初年度の研究対象は旧約聖書を基にした説教であったが、それらはすべて事件を引き起こしたジェズイット及びカトリック教会への激しい非難であった。ところが新約聖書を基にすると聖書の内容に変化が生じてくる。その点で特筆すべきはAndrewesの説教である。James Iの御用説教家でもあったAndrewesはそのほとんどが旧約聖書の基づく説教であったが、上記2編は新約聖書をテーマにした説教である。明らかにAndrewesには聖書選択に関して戸惑いがあった。Luke伝を事件に適応すると事件首謀者への寛大な態度が生じてくるからである。それゆえAndrewesの説教は事件を非難することを目的とした火薬陰謀事件説教からすれば想像できない内容の説教であった。それは多分に「平和」を特に重視し、Rex Pacificusと呼ばれたJames Iを意識したからであった。注目すべき第二点は説教の行われた時代の王の宗教と説教との関係である。James I, Charles Iは英国国教会教徒であるが、Charles II,James IIはカトリック教徒であった。だからCharles IIやJames II時代の火薬陰謀事件説教ではその内容がカトリック教会との対決姿勢を弱めていくのである。そのために各説教家は旧約聖書を避け、意図的に新約聖書を選んだのである。これは私がこれまで抱いていた仮説でもあったが、昨年度の研究を通してこの仮説に誤りがないことが確認された。新約聖書の中心的テーマはキリストの「愛」である。それゆえに新約聖書に基づく説教には激しい敵意が欠如しているのである。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の平成24年度には平成23年度に引き続き残りの新約聖書に基づく火薬陰謀事件説教の解明を研究課題とする。研究対象となる説教は(1)William Lloyd,1978年(2)William Lloyd,1680年(3)Thomas Wilson, Arrow,1679年(4)Richard Holingworth,1682年(5)William Lloyd,1689年(6)Gilbert Burnet,1689年(7)John Sharp,1691年,である。以上の説教を精読し、各説教家がいかに時のカトリック教を信奉していた王を意識して、事件の首謀者ジェズイット及びカトリック教会への批判を弱めているかを検証していく。それにより平成22年度に行った旧約聖書を基にした説教と新約聖書を基にした説教がいかにその内容が異なっているかが解明されることになる。
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