研究課題/領域番号 |
22520236
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
鈴木 実佳 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (40297768)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | イギリス / 18世紀 / 日記 / 手紙 / 文学 / 感受性 / 慈善 / 正当性 |
研究概要 |
これまでの研究成果の一部を口頭発表及び論文として発表することができた。 出版物と、出版を意図せずに書かれた個人の記録を対象として、書くことそしてそれを記録として保存するということの文化的意味を考察する研究のなかで、個人の内省描写や個人が自分の人生を語ることよって作る人間関係に注目し、個人的記録にみられる社会のなかの市民としての責任感について、そして、文学の世界と、一般の人々が請願書や手紙で形成している書き物の世界の間の関連を探ることにより、「長い18世紀」英国文学文化研究への貢献をある程度果たすことができたと考えている。 口頭発表は、海外で2件行った。6月に英国ケンブリッジ大学での学会において、‘Perhaps other people have said so before, but not one with such justice’: Observation, Justice and Narrativeと題して「正当な」評価と人生の物語について考察した論文、7月に英国ハートフォードシャにて、Sharing One’s Story: ‘a faithful narrative of every event’と題して、人生の「すべて」を語ろうとする伝統の推移をテーマとする論文である。いずれも、出版後200年を迎えたオースティンの作品をテーマに掲げた学会であり、文学にとりこまれた人生の物語を分析した。 『18世紀イギリス文学研究第5号』(2015年刊行予定)にスペンサー伯爵夫人の慈善について、富者の論理と、請願者の救援に値することを示そうとする語り方を考察した論文が掲載されることが決まっており、初稿の校正を終え、出版にむけて準備が進んでいる。 6月の口頭発表の内容を発展させて論文にし、それを静岡大学の『人文論集』に掲載した。他に推敲中の論文が3点ある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
英語での口頭発表を2013年は1月、6月、7月と3度行うことができ、それによって英米などの歴史家や文学研究者からフィードバックを得ることができ、研究の充実に向けて多くを得た。また、日本語による論文ではあるが、査読付きの論文集に、これまでの研究の全体像を示す論文が載ることが決まっており、2014年度に出版される。さらに査読つき学術誌に発表する準備を進めているので、着実に進んでおり、単年度としては悪くないと思われるが、全般的にみれば望むようには進んでいないので、やや遅れていると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
英語論文を学術誌に発表することができるように努力することに最大限の力を傾ける。そのための準備として、これまで蓄積した手稿資料の読解と、その分析を時間をかけて行う。一次資料を読むこととともに18世紀の文学や哲学歴史関連(特に宗教と慈善、18世紀の歴史的状況、女性の活動についてなど)の参考文献を読むという、机に向かう一人の努力をもちろんしていく。そして次年度の課題として想定していることのひとつは、これまで得意としてきていない政治的状況を関心の範囲にいれ、それに照らして個人の記録を見るということである。これは、総合的な視野から記録を考察することを可能にし、また、そもそも主たる対象としているスペンサー伯爵夫人の第一の文通相手であるハウ夫人は、アメリカ独立戦争中にイギリス海軍で重要な地位についていた人々を輩出した家に属する人物であったことから、女性たちの私的な手紙に、緊迫した情勢がどのように表れてくるか、あるいは彼女たちが自分の役割をどのようにとらえていたのかということを考察するのは、私的記録と公共心の研究のコアにもなり得る。ただし、ハウ夫人の筆跡が非常に読みにくく、スペンサー側から書いたものは内容を把握しやすいが、ハウ夫人から返事に書かれていることを読むのはたいへんな時間がかかるものでもあり、時間をかけても読めない可能性もあるので、慎重に判断することが必要である。 そしてまた、海外の学会での口頭発表は、研究が成果として結晶することを著しく進めるので、2014年度もその機会を複数回つくることにする。年度予算の大半を使ってイギリス18世紀学会(1月)、アメリカ18世紀学会(3月)での発表を行うことができるよう手配する。
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