研究実績の概要 |
個人の日記や手紙などの記録の語りに注目することに変りはないが、2014年度は、物語や技法に関する議論だけでなく、宗教的側面や、政治的動向など、これまで手薄になっていた社会の動きに対する反応や思想的影響などに着目していくことを目標とした。宗教的側面については、まだリサーチが浅く、論文にまとめていくことができるような段階に至っていない。政治的側面については、一つの緒をつかむことができた。数日という短期間であったがアメリカのコロンビア大学で18世紀の人々が残した手紙などの記録についてリサーチすることができ、社会の混乱・暴動・革命を全体のテーマとした1月の英国18世紀学会にて、‘Personal and Civic Concerns: for a proper and lasting peace'と題して、アメリカ独立戦争期に,海軍提督などの要職に就く兄弟を輩出した一家の一員であるハウ夫人とスペンサー伯爵夫人との間の手紙のやりとりに示されている女性たちの懸念や責務の意識をとりあげた。スペンサー伯爵夫人は当研究で最も重要な研究対象である。3月のアメリカ18世紀学会においては、‘Deformity, Storytelling and Relief: The Recollections of the Possession (1690)’と題して、女性の語りとそれが書き留められ、回想として出版される事態との間の操作や意図についての論文を発表した。 18世紀研究の論文集である『十八世紀イギリス文学研究5』(開拓社 2014)に「スペンサーの慈善:金銭と物語」という論文が掲載され、慈善にかかわる研究に一区切りつけることができた。 イギリスの学術誌Critical Surveyに、2013年に口頭発表した成果を発展させた論文が掲載され、これが最も大きな成果となった。ここでは、出版された作品の中での登場人物による人生の物語の語りと手紙による伝達に注目し、18世紀の語りの伝統をジェイン・オースティンがいかに巧みに利用しているかを論じた。
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