研究概要 |
本年度は12-13世紀にラテン語に翻訳され、その後、俗語に翻訳された健康規範Secreta SecretorumとRegimen sanitatisが中世末の様々なジャンルの書物に吸収される過程を探り、15世紀末にイギリスで編纂されたThe Kalender of Shepherdesを集中的に研究した。The Kalender of Shepherdes(Kalendar『羊飼いの暦』)は、フランス語版Le Compost et kalendrier de bergiersから1503年に英語に翻訳され、16世紀のイギリスで版を重ねた実用書兼キリスト教的道徳書である。本研究では同書を中世のホリスティックな治療の文脈に位置づけ、医学と宗教の共生的関係を読み解いた。特に、16世紀初頭にロンドンの印刷業者Richard PynsonがSecretaに由来するLydgateのテクストを付け加えて出版したことに着目し、SecretaやRegimen Sanitatisが神秘主義的テクストの中にどのように組み込まれ、身体と魂の治療にいかなる特徴を与えたかを検討し、その上で、Kalendarが健康規範の理論とキリスト教会の言説とが並存する宗教書兼家庭の医学書であり、身体と魂の健康の実践的理論が英語版のKalendarに開花したことを検証した。 研究成果はMedieval Translator 2010, PaduaでThe Translation of the Regimen Sanitatis into a Handbook for the Devout Laity : A New Look at the Kalendar of Shepherds and its Context'と題して口頭発表した。
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