研究概要 |
本年度は宗教文学における霊的治癒の言説を検討するために、13-15世紀のイギリス神秘主義文学に大きな影響を与えた北ドイツのヘルフタ修道院の修道女、ハッケボーンのメヒティルト(Mechtild of Hackeborn)が著したLiber Spiritualis Gratiae(以下Liber)を精査し、霊的治療のテクストとして新たな解釈を試みた。また、同書は15世紀初頭に、ラテン語からThe Booke of Gostlye Graceと題して中英語に翻訳され、多くの読者を得た。よって、本研究はラテン語テクストと中英語テクスト比較研究を前提として展開した。 Liberの特徴は聖務日祷、ミサ、聖体拝領などの教会典礼を軸とする神秘的霊性にあり、そこに医学と宗教の言説の交差・接合を検証できる。特に、神秘的合一に至る過程での身体的・感覚的経験と中世医学の「6つの非・自然」との連関において、教会典礼の果たす役割は大きい。典礼音楽と霊的治癒についての研究を、International Medieval Congress 2011, 11-14 July, University of Leeds (UK)において、'Heavenly Vision and Psychosomatic Healing : Medical Discourse in Mechthild of Hackebom's the Booke of Gostlye Grace'と題し、口頭発表した。 尚、同学会では、オーガナイザーとしてReligion, Medicine and Gender in Late Medieval Culture, I and IIの2つのセッションを企画、運営し、Drs Catherine Batt, Liz McAvoy, Christine Leeなどの欧米の著名な研究者6名によるセッションを行なった。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は研究計画に沿って、ジェンダーの観点から神秘主義文学と医学の言説についての研究に取り組む。来年度はこの分野で先端的研究を行っている研究者の協力を得、静岡で国際シンポジウムを開催し、書物にまとめる準備をしている。 また、Liber Spiritualis Gratialにおける教会典礼と死生観についての研究を継続し、国際学会(Conference of Literature, Science and Medicine in the Medieval and Early Modern English Periods, University of Laussane 2012)で口頭発表を予定している。
|