平成24年度は、本研究の総括を視野に収めた研究を実践した。実績は以下の通りである。 (1)これまで分析の対象としなかった奉公人文学作品―George ChapmanのGentleman Usher、ShakespeareのOthello、The Tempest、Richard BromeのA Jovial Crewなど―を分析し、奉公人文学のジャンル、近代初期英国における社会的流動性と、各作品における奉公人・従者の「場」との関連性をデータ化した「近代初期英国奉公人文学データベース」を平成22、23年度に続いて作成した。 (2)近代初期英国における社会的流動性と連動したドメスティシティの概念と、奉公人文学とを結びつける「マスターレス・マン」(masterless men)の表象に焦点を合わせて分析を行った。劇Othelloにおいて、従来「場」(place)と「奉仕」(service)の概念が芝居の核となっていることが指摘されてきたが、本研究では、近代初期英国における「マスターレス・マン」が喪失した「場」と 「奉仕」こそが劇の鍵概念であることを解明した。 (3)近代初期英国の奉公人文学とローマ新喜劇、とくにPlautusの作品との関連に焦点を合わせて研究を行った。Robert S. Miolaが指摘しているような、言葉遣いの相似性にとどまらず、Shakespeare劇とローマ新喜劇とは、「奉公人」や「奉仕」の概念を軸にして深く連関していることを解明した。たとえば劇Othelloに描かれた主人と従者の関係は、PlautusのMiles gloriosusのPyrgopolynicesと奴隷Palaestrioの関係に等しいことを証明した。 (4)近代初期英国における奉公の概念規定、奉公人文学の定義および特徴、そしてそうした文学と当時の社会的流動性との関連についての研究の総括を行った。
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