研究課題/領域番号 |
22520241
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
渡辺 克昭 大阪大学, 言語文化研究科, 教授 (10182908)
|
キーワード | アメリカ / 進歩 / 破局 / デザイン / ドン・デリーロ / スーザン・ソンタグ / 襞 / 火山噴火 |
研究概要 |
本年度は、本研究の大きな柱である「破局の表象」と「進歩のデザイン」という二つのテーマをリンクさせる文学テクストとして、スーザン・ソンタグの『火山の恋人』(1992)を取り上げ、日本アメリカ文学会関西支部第55回支部大会(2011年12月3日、武庫川女子大学)のフォーラム「Natural Disasterとアメリカ的想像力」の講師として、「噴火・蒐集・生成-The Volcano Loverにおける歴史のポイエーシス」と題する研究発表を行った。「惨劇のイマジネーション」の著者としても知られるソンタグが、『火の平原』を著したウィリアム・ハミルトンの色鮮やかで精緻な火山表象からいかなるインスピレーションを得たのか。そしてまた、進歩と啓蒙の時代、十八世紀末に、破局の相としての噴火とフランス革命を共振させることによって、ソンタグが新たな歴史のポイエーシスをいかに模索したか、テクストに即して分析を行った。火山を巨大な布の突起に喩えると、噴火によって布の内側は外側へと裂け目で折り返され、外部は内部の襞によって覆われてしまうが、こうした表裏逆転により、溶岩には無数の襞と気泡の痕跡が残る。ドゥルーズを援用することにより、まさにそのような襞にこそ、直線的な進歩のデザインとは次元を異にする無限の生成変化の時空が内包されていることが明らかになった。そのような意味において、テクストの随所に配置された火山表象や溶岩標本のカットアップは、宇宙の包摂・分岐点をなす無数のモナドの謂いとして機能していることが判明した。 以上と並行して、ドン・デリーロの『ポイント・オメガ』(2010)において、人類の進化と破滅の恐怖が相互に織りなす無限大の時間相がいかに表象され、進化と終末をめぐるヴィジョンが文明の極限点に明滅する核の恐怖とどのように関わるかについて考察を深め、共著『異相の時空間-アメリカ文学とユートピア』(2011)に、論文「時の砂漠-惑星思考の『ポイント・オメガ』」を発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ほぼ当初の計画通り、年次計画を遂行することができ、2年次終了の現時点において、全体計画の半分は概ね達成されつつある。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究はその目標を達成するために、毎年度、先行研究の整理と分析の枠組みの検討を行いつつ、次のような4つの大きな柱を設定し、以下の手順で研究活動を実施する。I.4つの時代区分における進歩と破局のヴィジョンに関する各種メディアの表象分析。II.Iの各時期に出版もしくは舞台設定されたフィクションが描く進歩と破局の表象に関する比較分析。III.メディア、デザイン、視覚アート、映像など、特定の表象媒体に焦点を絞り、共時的観点より進歩と破局の表象の相関性を考察。IV.図書館、資料館、博物館、美術館等における関係資料の発掘、収集。なお、年度毎に上記の領域における進捗状況を的確に把握し、研究が計画通りに進まないときは、分析対象とする作家、メディアをさらに絞り込むなど、適宜柔軟に組み替えを行い、研究期間中に必ず一定の成果が得られるよう調整をはかる。
|