研究課題/領域番号 |
22520246
|
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
福永 信哲 岡山大学, 大学院・教育学研究科, 教授 (50116498)
|
キーワード | 聖書批評 / キリスト教 / ロマンティシズム / 進化論 / 意味探究 / 心の科学 / ユダヤ文化 / 実験科学 |
研究概要 |
1平成23年度に取り組んだ主な研究テーマは、ジョージ・エリオット後期の主要小説たる『ミドルマーチ』テクストをインターテクスチュアリティ(文学テクストに先行時代の遺産と周時代の影響関係を裏付ける方法)の観点から精査することであった。そこに作家自身の、英語聖書、オースティン、ワーズワース、スピノザ、フォイエルバッハとの対話が、情景描写と人物描写に反映していることを跡付けた。また、ダーウィンに代表される進化論の自然・宇宙観と創造主の人智を超えた叡智を見る聖書的世界観との対立・葛藤が小説言語に影を落としていることを具体的な言語事実から裏付けた。これは、現代英米のエリオット批評の動向を、我が国の批評界が共有する際の一助となると思われる。 2『ミドルマーチ』自体が有機的生命体の特徴を備え、作家が時代精神との対話から得た知見が個々の人物の内面描写にまで浸透していることを明らかにした。とりわけ、科学者・医師リドゲートの医学・整理学の知見は、作家自身が科学的世界観から学んだ知見の反映であることを跡付けた。同時に、彼の夫婦生活の挫折を通して、科学的世界観の限界をも洞察していたことを裏付けた。全体として、作品世界が、個人と個人の、個人と社会の、相互依存のネットワークとして生命的なプロセスそのものを描いていることを論証した。 3最後期の小説『ダニエル・デロンダ』を取り上げ、デロンダを中心とするユダヤ人物語が作家のユダヤ文化との対話を反映していることを論証しつつある。ヒロイン・グエンドレンの結婚生活の悲劇は、19世紀後半イギリスの因習的な文化風土を背景にもち、このプロットがユダヤ人プロットの汎ヨーロッパ的視野によって浮き彫りにされていることを明らかにした。そこに形骸化した宗教の再生を期する解釈学(既存の価値を解体し、意味を再建するアプローチ)のテーマを位置づけた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
エリオットの後期小説3作品のうち、『ミドルマーチ』と『ダニエル・デロンダ』が長大かつ複雑で、テクスト分析に予想外の時間と労力を要した。『フィーリックス・ホウルト』の分析は、『ダニエル・デロンダ』批評とともに、この1年の課題となる。
|
今後の研究の推進方策 |
エリオットの後期小説の批評は、イギリスヴィクトリア朝小説研究の最前線の様相を帯びている。それゆえ、作品テクストの分析と批評の裏付けをさらに行って、緻密化する必要を感じている。本年度末の研究総まとめは、完成に向かっての一里塚の域を超えないと危惧している。さらに時間をかけて、内外研究者との交流と、著書として世に問うことが不可欠と考えている。
|