研究課題/領域番号 |
22520248
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
宮崎 隆義 徳島大学, 大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部, 教授 (80157627)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 英米文学 / トマス・ハーディ / 短編小説 / 語りの技法 / 文体分析 / モダニズム / ポストモダニズム / イメジャリ |
研究概要 |
平成25年度については,全体の研究実施計画に基づき平成24年度の研究成果を発展させトマス・ハーディの短編小説の分析を継続して行った。これまでの研究との継続性と整合性を念頭に置いて,成果としては論文の形で公表している。論文では,従来から継続しているテーマも念頭に置きながら,本研究計画に沿った内容のものとなっている。すなわち,研究計画に示した3つの柱,1.時間構造構築と語りの技法の解明,2.モダニズムの観点から見た技法の分析,3.文体論の立場からの分析と体系化であるが,そうした面を分析と論考に反映させた。取り上げた作品は,語り手を足が不自由で身動きがままならない人物としており,その設定にハーディ独自の語りの技法への挑戦がうかがえる。それはまた,非常に近代的な技法であって先駆性と見なすこともできる。その技法を駆使しながら,人間の相互のつながりを,男女の結婚という基本的なつながりをベースにして,倫理や道徳の問題を絡めた複雑な様相を帯びている。このように,語りの技法的な面ばかりでなく,扱われているテーマについても,人間の心理に深く入りこんだものとなっており,この点でもハーディの短編が極めて現代的な側面を持っているかが理解できる。さらにまた,この作品を含め他の短編小説がそれぞれ扱っているハーディらしいテーマに加えて,思いがけずユーモアが込められていることが判明している。長編小説にもそうした面がうかがえるが,短編という緊密した構成に,語りの技法と相俟って極めて高度な文体的な修辞として織り込まれていることが,緻密な読みから判明してきた。こうした新たな側面についてさらに多角的な視点から眺めることが,参加した様々な学会での,一見関連性が低いと思われる研究発表やシンポジウムから大きなヒントや刺激を受けて可能となっており,現在扱っている短編の分析にも反映することができたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全体の計画を念頭に置いて,トマス・ハーディの短編小説について個々に分析を行っている。具体的な成果としての論文数は少ないがこれまでに着実に蓄積を行っている。また公表した論文については,これまでと同様に概ね評価を得ている。論文の形で公表したものとは別に,全体の研究計画に沿って論文となるものを書きためており,いずれは全体性と体系を考えながらまとめてゆく予定であり,その見直しと書き直しも継続して行っている。またその過程で,ハーディのユーモア性という大きなテーマにぶつかり,そのテーマに関しても見直しを図っている。
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今後の研究の推進方策 |
全体の計画に沿って研究を進め,さらに分析と論考を蓄積してゆくが,現在扱っている短編小説での分析では,「物語り」に関わる語り手と登場人物の扱いが特異なため,物語論の参照確認がさらに必要となっている。同時に短編小説のタイトルそのものが孕む問題,19世紀の扇情小説の問題,19世紀以前から19世紀にかけてのロマン主義の問題等が絡んできているので,より広範囲に視野を広げ様々な新たな知見を得ながら,分析と論考を進めてゆく方針である。また,新たな側面としてハーディのユーモアも語りの技法に大きく関わっているので,これも含め研究の体系化,並びにまとまったものとしての公表を考えて進めてゆきたい。
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