研究課題「アメリカ文学と自然・環境保護運動」の中で、最初の2年間はレイチェル・カーソンを中心に考察してきたが、最終年度はこの分野の先駆者とみなされるヘンリー・デイヴィッド・ソローを取り上げた。ソローの著作に見られる自然保護的な言説に関してはすでに多くの論文で言及してきたが、今年度は『メインの森』におけるソローの自然保護意識の誕生から成熟までの変遷を綿密に辿り、拙論「ソローとウィルダネス――『メインの森』再考」として、ヘンリー・ソロー没後150周年記念論集『ソローとアメリカ精神――米文学の源流を求めて』(金星堂、2012)に掲載した。本書は科学研究費補助金、研究成果公開促進費学術図書(課題番号 245042)として出版され、高い評価を得ている。 最終年度にあたり、科研報告書の序として本研究題目「アメリカ文学と自然・環境保護運動――概説」を執筆した。取り上げるべき作家・作品はあまりにも多く、3年間という研究期間ではすべてを論じることはできなかった。その代わりに序論として、アメリカ文学と自然・環境保護運動との関わりに付いて、概略的な考察を加え、全体として研究目的の明確化をはかった。 作家と自然保護活動家とは必ずしも両立せず、むしろ作家たちは自然保護の理念を高く掲げ、自然保護運動家たちの精神的な拠り所となったのではないだろうか。作家(ネイチャーライター)の著書がインスピレーションを与え、自然保護を促し、それに応じて自然保護運動家が集まって自然保護団体を作り、世論をリードしていって、多くのウィルダネスを救う、すなわちアメリカの大地を守ったという構図が見えてくるのである。
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