平成24年度の本研究の研究成果は以下のとおりである。20世紀前半の使用人の文学表象に関しては、Kazuo IshiguroのThe Remains of the Day (1989)、Agatha Christieの作品とアダプテーション、Evelyn WaughのBrideshead Revisited(1945)、Margaret ForsterのLady's Maid(1990)などを吟味した。20世紀小説と並行して、チャールズ・ディケンズやブロンテ姉妹、トマス・ハーディなど、ヴィクトリア朝小説における女性使用人の表象を20世紀小説と比較しながら吟味し、研究書を精読して分析と考察を続けた。 使用人の衣服と生活については、連合王国で収集した資料や写真の精査を行い、ヴィクトリア朝の女性使用人の写真や衣生活と比較検討を行った。 11月末に武庫川女子大学大学院に提出した博士論文においては、「使用人文学」の系譜におけるヴィクトリア朝小説の特徴を明らかにした。 20世紀になると、特に1930年代をピークとして使用人は激減していく。使用人が登場する文学、ドラマ、映画などで使用人の不足について、言及されている。使用人が雇主を困らす「使用人問題」について頻繁に取り上げられ「使用人問題」の質も変化している。 イギリスの使用人の文学表象はこれまでほとんど注意を向けられることがなかったので、本研究が行った前景化、すなわち、使用人に光をあて使用人をテクストにおいて浮かび上がらせることだけでも文学研究としては、意義深いものである。その上、本研究は、現地における使用人の衣服調査を行い使用人の人口変化の要因についても考察している。ヴィクトリア朝から20世紀前半にかけてのイギリス社会の変化とイギリス文学の変容の相関関係を探究している点で非常に重要な研究と言える。
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