研究課題/領域番号 |
22520258
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
金澤 哲 京都府立大学, 文学部, 教授 (70233848)
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研究分担者 |
柏原 和子 関西外国語大学, 外国語学部, 教授 (90330216)
石塚 則子 同志社大学, 文学部, 教授 (80257790)
塚田 幸光 関西学院大学, 法学部, 教授 (40513908)
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キーワード | 老い / エイジング / ジェンダー |
研究概要 |
本研究はアメリカ文学研究において注目されることの少なかった「老い」と作家/作品の関係を分析し、「老い」と社会の間に働く力学についての研究=「老い」の政治学を確立しようとするものである。 平成23年度における特筆すべき成果は、『アメリカ文学における「老い」の政治学』(金澤哲編著、平成24年3月、松籟社)の刊行である。本書は「老い」という観点からアメリカ文学を論じた初の学術書であり、本研究の目的とする「老いの政治学」確立のための重要なステップである。 本書序章「アメリカ文学における「老い」の政治学-その意義と可能性」において、金澤は1990年代以降の新たな「老い」理解を概観し、文学研究の立場からその意義と可能性を論じた。アメリカ文学研究において「老い」が切り開く豊かな可能性を示した本章は、今後展開されるべき文学における「老い」研究に、一定の基礎を与えるものである。 金澤はまた本書収録論文「時を越える女たち-ユードラ・ウェルティにおける「女たちの系譜」」において、キャスリーン・ウッドワードの議論をウェルティ論に応用することで、「老い」を越える作家の生のあり方を具体的に示した。 柏原和子は、本書収録の論文「高齢者差別社会における「老い」の受容-ジョン・アップダイクの描く「老い」」において、「老い」の受容を可能とするアップダイクの宗教的世界観の成長を跡づけた。 石塚則子は、本書「ウォートンの過去を振り返るまなざし-最後の幽霊物語「万霊節」」において、向き合いがたい過去を抱えながら生きる晩年の生の表現に幽霊物語がいかに有効であるか、ウォートンの実例に則しながら説明した。 塚田幸光は、「「老い」の/と政治学-冷戦、カリブ、『老人の海』」において、1950年代アメリカにおける文学の政治学の中にヘミングウェイを位置付け、「老い」のスペクタルによってヘミングウェイが当時の情勢をいかに攪乱しているかを明らかにすることによって、「老い」の政治的可能性というものを示した。 このように、『アメリカ文学における「老い」の政治学』刊行によって本研究は当初の目的実現に向かって大きな成果を挙げたと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「老い」という観点からアメリカ文学を論じた初の学術書である『アメリカ文学における「老い」の政治学』(金澤哲編著、平成24年3月、松籟社)を刊行したため。
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今後の研究の推進方策 |
文学における「老い」概念をさらに広げて考え、ジェンダーだけではなくポストモダニズムとの関連で捕らえていく。また「老い」表象の文学的・政治的有効性について、特定の作家の全キャリアを通じて検証する準備を進める。
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