イギリスの旧植民地であったカナダとオーストラリアは、近年優れた児童文学作品を輩出している。本研究は1960年代以降に出版された両国の児童文学作品に焦点を定めて、カナダとオーストラリアの児童文学の歴史と現状と将来への展望を明らかにすることを直接の目的としているが、これまでに蓄積してきた両国の児童文学に関する研究成果も用いて、黎明期から現代にいたるまでの両国の児童文学の通史をまとめることを最終的な目的としている。 本年度は研究の最終年にあたり、現代カナダ・オーストラリア児童文学作品の書誌情報及び作品評価に関するデータベースの完成を目指した。そのために、カナダ大使館、国際子ども図書館、大阪国際児童文学館などを利用して、現代の英語圏児童文学に関する調査・研究・資料収集を行った。また、現代カナダを代表するイラストレーター・アニメーション作家であるフレデリック・バックの特別展や世界八カ国の作品を集めたWorld Book Design 2011-12等を視察し、カナダやオーストラリアの優れた児童書や絵本に関する知見を広めた。 なお、研究協力者である牟田おりゑ岐阜大学名誉教授と共同して、両国児童文学の比較研究を行なった。特に3.11以来、牟田教授が関心を寄せている核とオーストラリア児童文学の問題について理解を深めた。一方、研究代表者は、L.M.モンゴメリとC.G.D.ロバーツの研究を進め、前者に関しては岡山県立大学国際教養講座において「赤毛のアンの真実―『モンゴメリ日記』から読み解く―」を発表し、後者に関しては『レッド・フォックス』の邦訳を脱稿した。かくして、『カナダ・オーストラリア児童文学史』をまとめる準備が整ったと確信する。本研究により従来英米中心であった児童文学研究に「英語圏児童文学研究」という新たな視座が確立されたことは、今後の児童文学研究の展開にとって意義深いと思われる。
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