英国演劇の現代校訂本編纂にとって最も重要なことは、作品の基盤となる戯曲本文の確立である。そのため平成22年度は、ジェイムズ・シャーリー全集収録喜劇について英国のみならず米国へ研究調査に赴くことを主眼とし、各地に存在する図書館を精力的に巡った。調査を行ったのは、英国では大英図書館、オクスフォード大学ボドリアン図書館、ヴィクトリア&アルバート美術館、米国ではUCLA図書館、ハンティントンライブラリーである。各図書館に保管されている1652年刊行のオリジナル古版本*Six New Plays* を計12冊用い、press-variants (印刷中の校正による本文の異同)に関して全ページで一字一句本文調査を行った。この結果、当該喜劇で40箇所近い本文の異同が確認され、今後の本文校訂と確立に大きな役割を果たす調査結果が得られた。 また書物の基本的な組成を分析・調査する書誌学の観点から、当該古版本について以下の調査を行った。タイトルページの印字について異同の確認、1646年に作成されたシャーリーのポートレイト掲載の有無、献辞とプロローグの有無、巻末に綴じられた編集者ハンフリー・モウズリーが販売する書籍広告一覧の有無とページ数のチェック。これらの情報は、収録喜劇の「イントロダクション」に盛り込まれる内容の一部となっており、当該書物のジェイムズ朝における書物史上での位置づけを行うために欠かせない情報である。基本文献の購入と、本文確立のための基本的書誌学データを数多くリストアップ出来たことは、本年度の大きな収穫となり、次年度以降いっそうその量を増やし、質を高めていくための重要な基本的情報となった。
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