初期近代英国演劇の現代校訂本編纂には、作品の基盤となる戯曲本文の正確な確立が不可欠であるという原則に基づいて、本研究に取り組んできた。そのため平成24年度は、ジェイムズ・シャーリー全集収録喜劇について、前年度に収集した英国や米国での研究調査結果をこの作品の本文として確立するために最大限利用した。 編纂する喜劇は、1652年刊行のオリジナル古版本 *Six New Plays*に含まれているが、この作品本文には多くの本文異同(press-variants すなわち印刷中の校正による本文の異同)があることが、全ページの本文調査から判明している。それらの異同について、大英図書館、ケンブリッジ大学図書館、オクスフォード大学ボドリアン図書館、ヴィクトリア&アルバート美術館、UCLA図書館、ハンティントンライブラリー等の各地の図書館別に異同一覧を作成して、本文編纂作業の正確性の向上を本年度は達成した。当該喜劇で40箇所近い本文の異同が確認され、それを実質的に校訂本編纂に利用できたことは、英米の図書館を回って収集したリーサチ活動が一定の成果を示した結果と言える。 また書物の基本的な組成を分析する書誌学の観点から、平成24年度も引き続き、タイトルページの印字について異同、1646年に作成されたシャーリーのポートレイト掲載の有無、献辞とプロローグの有無、巻末に綴じられた編集者ハンフリー・モウズリーが販売する書籍広告一覧の有無とページ数のチェックを行い、これらの情報も収録喜劇の「イントロダクション」に盛り込むべく、欠かせない内容となった。また当該喜劇の英国ジェイムズ朝における書物史上での位置づけを行うために、多くの基本文献の購入が出来たことは、昨年度同様、平成24年度の大きな収穫となり、喜劇編纂とイントロダクション執筆のための重要な基本的情報となった。
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