本研究は、以前からの研究代表者によるオーストラリア文学における日本人描写変遷の研究を発展させ、21世紀にいかなる展開があったかを検証するものである。アジア太平洋地域にありながらヨーロッパ的国家建設を目指したオーストラリアの文学においては、相容れぬ「他者」としての日本人描写が典型であった。だが太平洋戦争での直接対峙及び戦後の多文化主義政策実施により豪社会が描く日本人像には変化が見られた。21世紀に入って書かれた文学作品には、その影響の延長として新たな日本人像の創造が認められる。これにより社会と文学の相互作用、また文化の仲介者となる作者の役割を例示することができたと考えられる。
|