3年の研究期間最終年に当たる今年度は、3月に大英図書館への海外出張を行ない、次のような結果を残した。 雑誌Tait's Edinburgh Magazineに作家De Quinceyが投稿した一連の記事を読み、言論活動や交友関係の中から作品が生成される様相を具体的に論じ、そこで私事を暴露されたWordsworth、Coleridgeとの関係の変容、記事が読者大衆に与えた影響について考察した。また、政治的に保守派だったDe Quinceyが急進主義的なTait'sを投稿の場に選んだことで、平等主義的立場を取り歯に衣着せぬ物言いが可能になったという、出版媒体の特性による意外な効果を探り当てた。 De QuinceyがTait’sに掲載した記事を改訂して単行本化したRecollections of the Lakes and the Lake Poetsと20年近く前の雑誌連載記事とを比較対照することにより、文学史上での正典として成立するまでには様々な経緯を経るということを明らかにし、それを‘Thomas De Quincey’s Portrait of the Lake Poets: Individual Reality and Universal Ideal’(『英米文学』73号、2013年3月) にまとめた。 文学作品における歴史的文脈の捉え方に関しては、歴史性を完全に捨象するのでもなく、また全てを歴史性に還元してしまうのでもなく、芸術性と社会性の上で均衡を保ちつつ、最初の執筆、改訂、出版という生成過程とその後の受容過程を精査することで、文学批評の可能性は開かれると確信するに至った。 なお、昨年度中に成果として論文化していた「一八一六年六月十八日のクリスタベル―バイロン、ハズリット、シェリー―」(『亡霊とイギリス文学』国文社)が2012年8月に出版された。
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