研究概要 |
南北戦争期より1940年代までのアメリカ小説を中心に、そこに表れた「恥」の表象を読み解くことを目指した本研究の初年度にあたる平成22年度には、早速、(1)「人種意識」と「恥」の結びつきの具体的検証および概念化、(2)南部白人文学者および知識人が抱える「恥」の位相に関する調査と予備的な成果発表を行った。それを通し、本研究の基本構想と今後の研究方針の整備を図った。 5月の日本英文学会シンポジウム、6月のAssociation for Cultural Studies年次大会自由論題、6月の日本アメリカ文学会東京支部会シンポジウムにおける口頭発表では、それぞれ、日本モダニズム文学(1930年代前半)における人種的恥辱の表象や、モダニスト作家ガートルード・スタインに見られる私秘性(privacy)の文学表象を扱いながら、恥というモティーフの表現について考察した。 課題(2)については、「恥」の思想的意義と実質的展開を精査するための史料閲覧・収集のため、ミシシッピ大、ヴァンダービルト大、フィスク大の図書館や公文書館を訪問した。そこでは主に、William Faulkner,John Crowe Ransom,Jean Toomer等の思想的軌跡が記されている文書を収集し、それを別途進めてきたW.J.CashやV.E.Calvertonの文献研究と有機的に連動する形で解析・整理した。さらにその暫定的成果を、アメリカ文学のより広いコンテクストとともに解説した論文としてまとめ、『Web英語青年』誌の連載企画を通して順次公開した。その他、イギリス、ラトリッジ社が刊行するSocial Semiotics誌に、本研究関連の寄稿を招請されたことを受け、冷戦期アメリカ文化を背景にした日系人や武術表象をめぐる西欧の観念を批判的に扱った論文をまとめ、同誌上で発表した。
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