研究の最終年度にあたる平成25年度は、これまで進めてきた(1)「人種意識」と「恥」の結びつき。(2)南部白人文学者および知識人が抱える「恥」の様相。(3)黒人文学に表れる恥辱表象の傾向的把握および個別例の整理、ならびに歴史的推移の確認。(4)より広いアメリカ近現代文学・文化における「人種的恥辱」の解明ならびに概念化。という問題の構造的連関性をまとめるという課題に取り組んだ。これは、当初より最終目的としていた「黒人、南部白人、北部白人の文学における恥表象の具体的呼応関係とその思想史的含蓄」の確認作業にほかならない。年度を通じ、口頭・論文による成果発表を通してこの課題への考察を深め、さらなる概念構築を遂行した。 年度前半には主に、過去2年間の研究段階で得ることのできた表象や作品に関する具体的知見を、スピノザならびにドゥルーズ=ガタリの哲学における恥辱思想、フロイト精神分析学における自我の理解を手がかりに総括し、恥という強力な情動がいかに集合的/個人的自己同一化に作用し、暴力とコミュニケーションの両方を誘発し、さらには人の自意識や歴史認識、世界構造の理解に作用してきたのか、その実相を探究した。 さらに米国イェール大学における在外研究に入った年度後半からは、専門アーキヴィストと協議しつつ、従来の研究段階では副次的であった①北部奴隷解放活動家の人種観と、②再建期(=奴隷解放後)のアメリカ社会が進んだ方向に関する北部知識人の南部観を示す膨大な一次資料を解析した。この補助リサーチにより、年度前半より進めてきた人種的恥辱とアメリカ文化に対する自己認識の関係を、より精度の高い歴史的・地域的パラメータとともに考察・概念化することが可能となった。
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